2026年5月31日、三省堂書店神保町本店にて「りんご塾」代表・田邉亨氏によるトークイベントが開催されました(ファシリテーター:城南進学研究社・村上氏)。
算数オリンピックで圧倒的な実績を誇るりんご塾を運営し、人気教材『ヒマつぶしドリル』の著者でもある田邉氏は、どのようにして子どもたちにアプローチしメダリストを育てているのでしょうか。
前半では、算数特化のりんご塾を始めた背景や、子どもたちが算数に熱中する教材の仕掛けについてお届けします。
後編はこちら:【イベントレポート・前編】算数オリンピック金メダリスト9年連続排出!「りんご塾」田邉亨代表トークイベント
子どもたちの「楽しかった」という声が算数オリンピックを後押し






村上氏:本日はよろしくお願いいたします。今や全国330教室を展開し、算数オリンピックでも圧倒的な実績を残されているりんご塾ですが、2000年に滋賀県彦根市で開校された当初は、算数特化ではなく小中高対応の塾だったそうですね。
田邉氏:そうなんです。最初は人も少ない地域で、全学年を対象に広く教えていました。ただ、小さい子に英語の挨拶や自己紹介を教えるよりも、小学生に中学受験レベルの算数を教える方が圧倒的に面白いと感じたのが、算数へ舵を切るきっかけでしたね。
村上氏:そこから算数オリンピックを目指すようになったのは、ある優秀なお子さんとの出会いがあったからだとか。
田邉氏:私が当時書いていたブログをきっかけに出版した本(当時は全然売れませんでしたが笑)を読んで、市内の非常に優秀な小学生が塾に来てくれたんです。「この子をどう育てようか」と友人に相談したところ、「算数オリンピックはどうだ」と勧められ、大会の1ヶ月前から急遽取り組みを始めました。
結果として、その子はすごく能力が高かったにもかかわらず、その年から4年連続で予選落ちしてしまった。名誉のために言うと、その子はその後、中高大とストレートに進学して京都大学へ入ったのですが、当時は本当に悔しい思いをしました。
ただ、算数オリンピックに挑戦しだした時期に通ってくれていた子たちに聞くと「あのとき難しい問題にチャレンジしたのが一番面白かった。中高の勉強を含めても、あの頃が一番楽しかった」と言ってくれたんです。
村上氏:子どもたちに教えていると、そういう自分自身のキャリアを変える出会いがありますよね。
田邉氏:その通りで、この最初の失敗と、子どもたちの「楽しかった」という言葉があったからこそ、その後の指導法が確立され、メダリストを輩出できるようになりました。
2013年の「予選全落ち」が教えてくれたこと

村上氏:その後、開校5年目(2014年)で滋賀県初となる金メダルと長尾賞(——小学校3年生以下の部門で特に優秀な成績を収めた児童に贈られる賞)を受賞されます。この辺りで何か指導のコツを掴まれたのでしょうか。
田邉氏:実は、その前年の2013年大会で参加した子たちは「予選全落ち」という最悪の結果だったんです。当時は「難しい問題は捨てて、解ける問題を確実に解く」という受験テクニックを重視していました。
しかし全落ちを経験して初めて、「常にどこかで100点を取る練習をしておかないと、子どもたちは難しい問題にぶつかったときに諦めてしまうんだ」と気づきました。そこで、指導方針を大きく変えました。
この「満点を取る練習」と「合格(飛び級)する練習」を同時に走らせることで、子どもたちの粘り強さが劇的に変わりました。翌年からは一気に実績が出始め、昨年はキッズBEE部門(小学校1年生~3年生が参加する)で金メダル5名、銀・銅メダル36名という結果を残すことができました。
村上氏:全体では何名がメダルをもらえるんですか?
田邉氏:キッズBEE全体では金メダル40名、銀銅合わせると300名くらいですね。
村上氏:メダリスト全体の10%以上がりんご塾に通っている子というのはすごいですね。
田邉氏:最初に教材を作ったときには「お前のところ中学受験しないじゃん」という批判をされました。確かに田舎なもので中学受験をする子はほとんどいなかったんです(笑)
ただ、算数オリンピックなら全国共通だからこれなら文句言われないだろうと(笑)
算数は「手順を踏めば解ける」という誤解が、4年生以降の挫折を生む
村上氏:さてここからは、りんご塾で実際にどういうことを教えているのかを伺えればと思います。まず世間では算数というと、計算問題を大量に解いて反射神経を鍛える「苦行」のようなイメージを持たれがちです。
しかし田邉先生は「反射では問題は解けない」「作業や操作で答えが出るという間違った認識を与えてはいけない」と仰っていますね。
田邉氏:まさにそれを言いたくて私は塾をやっています。算数が得意な小学1〜3年生の子どもたちは、学校で先生の説明を聞いて練習問題を数問やれば、簡単に理解できてしまいます。テストでも100点を連発して褒められる。でも、心の中では「つまらないな」と思っているんです。
この時期に簡単な問題ばかりやらせていると、子どもたちは「算数とは、先生の言う通りの手順で作業すれば解ける教科だ」と誤解してしまいます。すると、4年生以降になって、本当の思考力が必要なややこしい問題にぶつかったときに、パタッと解けなくなってしまう。「手順通りにいかないから嫌だ」と、苦手意識を持ってしまうんです。
だからこそ、1〜2年生の低学年のうちに「考えなければ絶対に解けない問題」に触れさせ、「算数は考える教科なんだ」と肌で知ってもらう必要があります。
知識を「教える」のではなく、パズルのルールとして「内面化」させるりんご塾

村上氏:算数に対して哲学を持って教材を作っているのがりんご塾ですよね。
実際にりんご塾の教材は、子どもたちがめちゃくちゃ楽しんで夢中で取り組みます。できたときも、できなかったときも大騒ぎで、予備校出身の僕から見ると、これほどの没入感は驚きです。
今日お配りしたサンプル問題の「芋虫パズル」などもそうですが、これは年長さんとか小学1年生向けの教材です。不等号や偶数・奇数といった、本来なら小学校3〜4年生で習うカリキュラムの概念が自然と組み込まれています。
驚いたのは、それを大人がいちいち説明しないことです。子どもたちは「2、4、6、8は同じチームらしいぞ」と、パズルのルールとして算数の定理を自分の中に落とし込んでいきます。
田邉氏:学校の授業で「奇数はこう、偶数はこうです」と定義から教えられても、子どもにとっては日常経験にない言葉ですから、退屈でうんざりしてしまいます。でも、「自分がこれから解くパズルのルール」として提示すれば、子どもたちはあっさりと受け入れます。
例えば、プラスとマイナスの概念は中学1年生で多くの生徒が躓くポイントですが、パズルにしてしまえば小学1年生でも楽しそうに解いてしまいます。「こんな簡単なことで中学生が躓くなら、みんな低学年からりんご塾をやればいいのに」と思うくらいです(笑)。

村上氏:例えば、この数字繋ぎも1年生の子がやっている。これは大人のやるいわゆる「ナンプレ」みたない。
田邉氏:大人向けのナンプレをそのまま子どもに与えても1問に1時間かかってしまい嫌になりますが、子ども向けに適切に落とし込んだ教材であれば、高い没入感を持って自ら考え続けることができます。
大人が答えを教えるのではなく、子どもが試行錯誤しながら進めるので、りんご塾の子どもの机は消しゴムのカスだらけになります。でも、その消しゴムのカスこそが、彼らが思考した「努力の跡」なんです。
村上氏:そうですよね。りんご塾の教材は楽しませるんだけど明確に意図を持った教材になっていることが皆様にもお判りいただけたかなと思います。
後半では、メダル受賞者のその後の進路や受験に「勝てる」子の育て方などを紹介します。
後編はこちら:【イベントレポート・前編】算数オリンピック金メダリスト9年連続排出!「りんご塾」田邉亨代表トークイベント














